対キーエンス株ロジック⑤ ロジックの実用性を検証する

実用性を検証する

前回までの記事でロジック検証やパラメータ調整を行ってきたロジック「Δ始値」と「見えないローソク」ですが、損益曲線や資産推移はあくまでバックテストのシミュレーション結果です。このロジックやパラメータが実践でも使えるかどうか、欠点や問題点、可能性を検証してみます。

取引量を考慮する

前回の記事で最もパフォーマンスが良かったのはパラメータの閾値を±1.0%に設定したものでした。

左軸は損益%の累計で、右軸は資産(円)です。100万円スタート・レバレッジ3倍の複利投資で、なんと1200倍(12億円)以上にもなっています。損益%の累計が600%いかないくらいで、1回の増分が0.2%くらいであっても、複利投資を繰り返せば元手が1200倍になったりするんですね。これが複利の恐ろしさです。

しかし、実際にはこのロジックでレバレッジ3倍の複利投資をしていたとしてもこのようなグラフにはなっていません。なぜなら、ここまで運用資金が大きくなってくると、自分の取引で価格が大きく動いてしまうためです。収益再投資・複利投資を行うと、利益が増えるにつれて取引量がどんどん増えていきます。一貫して同じロジックを適用しても、自分の取引で価格がずれるようになり、それが原因で板が壊れてロジックが通用しなくなってしまいます。どこかで天井にぶつかってしまいます。個別株で取引量を増やし続けると天井にぶつかるのも早いです。株の流通時価総額の小さな銘柄では10億円も取引したらストップ高・ストップ安になってしまうでしょう。

個別株の寄り引けで取引できる金額は、売買金額の大きい銘柄を選んだとしてもせいぜい数億円が限界です。それ以上の金額はデイトレではなくスイングや長期投資など、もっと大きな時間スケールで考える必要があると思います。

収益再投資でひたすら利益を拡大していくには、取引量を増やしても影響が少なくなるような、為替がベストで、次点が指数先物でしょうね。天井を上げるためにはこのような大きなマーケットに挑む必要があります。ただ、このような巨大マーケットは参加者が多数いて、トレーダーの思惑も多数に分散しており、今回ご紹介したようなシンプルなロジックが機能しにくかったりします。個別銘柄は天井は低いですが、そのかわりトレードする人が限られているのでシンプルなロジックが有効なことが結構あります。

ドル円やユーロドルのような板が異常に分厚い銘柄は片道10億円(=1000万通貨程度)取引したくらいではレートはビクともしません。

手数料・スプレッド・取引単位を考慮する

これまでは取引手数料・スプレッド・取引単位をいずれも考慮していませんでした。

理由はいくつかあります。

①手数料やスプレッドをいったん無視したほうがロジックの純粋なパフォーマンスを評価しやすい

手数料やスプレッドを考慮することでロジックそのものの機能性にマスクがかかってしまうことがあります。「とりあえず手数料やスプレッドがなければ勝てる」ようなロジックでには、何らかの優位性があると思われます。スプレッドや手数料を考慮するのはそういった「勝てそうなロジック」を見つけてからでもいいと思います。

②寄り引け限定の取引ならそれなりの出来高があるので、最小単元の売買であればスプレッドなしで取引できることは多いと考えられるため

今回のロジックは寄り引け専用です。キーエンス株は毎日それなりの出来高があり、少なくとも最小単元:100株の取引であれば始値も終値もほぼヒストリカルデータ通りの値で約定することが多いように思います。したがってスプレッドの影響は軽微と思われます。とはいえ、有利な方向に動くことはなく、動くときは1ティック不利な方向に動くでしょう。

寄り引け以外も取引するようなロジックであれば、ロジック検証の最終段階ではスプレッド考慮は必須です。個別株ではザラバの板がスカスカに空いている銘柄も少なくないので、先物とは違いスプレッドが1ティック分では済まないことも多々あります。むしろ、個別株ではよほど板が分厚い銘柄でなければスプレッドはけっこうあり、正確に考慮するのはかなり難しいです。したがって、株の時系列解析では日時データを使って寄り引け売買ベースの損益を評価するほうがいいと思います。

③単純に、手数料を考慮するのが手間

最初から手数料を考慮する手間をかけるより、その手間を省いていいロジックを探すことに時間を割いたほうがいいと思っています。

手数料やスプレッドの考慮は最後でよい

このような理由から、まずは手数料やスプレッドの考慮はいったん後回しにして、レート通りに約定すると仮定してバックテストを行ってもいいと思います。有望そうなロジックを見つけられたときに、検証の最終段階で手数料を含むその他のコストを盛り込んでより正確な計算をすればいいと考えています。

信用取引の手数料を安くする方法

信用取引手数料に関してはSMBC日興証券の信用取引を使えば、日計り決済なら取引手数料がかかりません。取引手数料以外の金利、貸株料はかかりますが、制度信用の年利は2.50%、一般信用の年利は3.00%、貸株料の年利は制度信用1.15%、一般信用1.40%です。

https://www.smbcnikko.co.jp/products/stock/margin/online/index.html

日計りなら365で割った利息が1日分の手数料になり、その手数料は上記の中で最大である一般信用年利3%の手数料に対しても1日当たり=1取引あたり0.008%です。

前回ご紹介した閾値±1.0%のロジックではトレード1回あたりの平均利益が0.243%なので、手数料を考慮しても平均利益は0.235%出ていることになり、手数料の影響は軽微です。寄り引けで信用取引をするなら、引き手数料が無料のSMBC日興証券は合理的に最適の証券会社だと思います。

複利投資(収益再投資)した場合の理論値は見ておく

前述したとおり、今回のケースでは出来高や取引可能量の問題から複利投資してもどこかで天井にぶつかってしまいますが、天井や取引可能量を無視して複利再投資をした場合にどうなるか見ておいたほうがいいと思います。「どこから始めても退場にならずにおおむね利益が出ている」ということが確認できれば、それはそれで有用な評価材料だからです。また、想定レバレッジを変えてみるのもいいと思います。レバレッジを上げれば上げるほど長期的には破産する可能性が高まることがよくわかり、非常のいい勉強になると思います。

ともあれ今回のケースでは複利投資で損益グラフのようなパフォーマンスを発揮することは困難でしょう。最大の理由は取引可能量の限界です。一方、最小単元の取引に限れば手数料周りの問題はおおむね解決していると思われます。要は、複利投資しなければ大体バックテストと同じくらいのパフォーマンスになっていたのではないかと思います。

ただ、複利投資をしないのであれば%表記での損益曲線はあまり意味がありません。なので、このロジックで100株で売買を繰り返していた場合の損益額を見てみましょう。要は、合計で何円の価格差を抜けたかという話です。

最小単元の100株で売買を繰り返した場合の損益

複利投資をしない場合、損益合計の大きさが重要になります。

前回ご紹介した5通りの閾値について検証しましょう。%表記の損益はこのようになっていました。

閾値 売買区分 取引回数 損益合計 平均利益
0% 買い 975 124.14% 0.127%
売り 1160 132.59% 0.114%
売買合計 2135 256.73% 0.120%
0.25% 買い 793 116.67% 0.147%
売り 911 159.47% 0.175%
売買合計 1704 276.14% 0.162%
0.50% 買い 637 118.10% 0.185%
売り 722 159.35% 0.221%
売買合計 1359 277.45% 0.204%
0.75% 買い 490 111.91% 0.228%
売り 558 134.57% 0.241%
売買合計 1048 246.48% 0.235%
1% 買い 353 81.47% 0.231%
売り 429 108.92% 0.254%
売買合計 782 190.39% 0.243%

円表記の損益を求めるため、信用取引の手数料0.008%も考慮したうえで再計算しました。

その結果がこちらです。

閾値 売買区分 取引回数 損益合計 平均利益
0% 買い 975 23,440 24
売り 1160 24,953 22
売買合計 2135 48393 23
0.25% 買い 793 20,894 26
売り 911 37,458 41
売買合計 1704 58352 34
0.50% 買い 637 20,164 32
売り 722 36,016 50
売買合計 1359 56180 41
0.75% 買い 490 19,068 39
売り 558 31,764 57
売買合計 1048 50832 49
1% 買い 353 12,678 36
売り 429 25,047 58
売買合計 782 37725 48

損益合計、平均利益の単位は円で、1株あたりの利益額です。

最小単元は100株なので、最小単元での取引時の利益金額はこの100倍になります。

一番成績がいいのは閾値が±0.25%の場合です。普通に考えると損益合計が最も大きくなった閾値設定の±0.50%のほうが成績が良くなりそうですが、そうならなかったのは手数料の0.008%の影響でしょうね。ただ、この中からパラメータを選べるのであれば筆者は閾値±0.5%を選びます。閾値±0.5%では、閾値±0.25%の場合と比べて合計利益が大差ない一方で、平均利益がかなり大きいからです。あるいはより平均利益が大きい閾値±0.75%も魅力的です。

それぞれの損益グラフ

閾値±0.25%の損益グラフ 横軸の単位は「円」(最小単元100株取引の場合はこの100倍)

閾値±0.5%の損益グラフ

閾値±0.75%の損益グラフ

どれもあまり大きな差はありませんが、選べるなら一番ドローダウンが小さそうな閾値±0.5%でしょう。このグラフは円表記になっているので、%表記の時に比べて前半のドローダウンがかなり小さめです。その頃はキーエンスの株価は現在の1/6以下で、%表記で大きくても円表記では相対的に小さくなるのが原因でしょうね。この影響から、株価が膨らんだ後半のほうがよりドローダウンが目立ちやすくなっています。

それを考慮しても、ピークを付けた後のドローダウンがちょっと気になりますが、この損益グラフや平均利益額の感じからしても、このロジックは実践でも使えていた可能性がけっこうありそうです。

実践で使う際のその他考慮事項

想定値で約定させられる方法があるか

このロジックでは始値を見てから始値で取引することになっています。そのような方法でどうやって約定を成立させるかが実践において課題になります。この指標は逆張りロジックなので、閾値を成立させる価格の寄指で入れておけば可能ですが、閾値が小さくて指標が売りに転ぶか買いに転ぶかスレスレのラインで動いているような朝は売りか買いか、どちらか一方の指値に絞らないといけない日もあるでしょう。

また、順張りロジックだとそもそも指値が使えません。逆指値を使うことになりますが、寄りの株価では約定させられないのでスプレッドが発生してしまいます。

順張りロジックで始値で入りたい場合は始値が決まる直前の板の状況を見て瞬間的に決めることになり、HFTに近くなってしまいます。あるいはリアルタイムスプレッドシートを使うことになるかもしれませんが、SMBC日興証券ではリアルタイムスプレッドシートが使えないため、手数料無料を享受することができなくなってしまいます。

まとめ

ごくシンプルなロジックでも有望なものがあることを、キーエンスをたたき台にしつつ5本にわたって連載してきました。このような単純ルールでも結構いい線まで行ける(かもしれないこと)を多少なりともお伝えできたかと思います。

いずれ重回帰分析やインディケーターなど、もうちょっと複雑なルールやAIを使った相当複雑な売買判断などもお伝えできたらと思っています。今後ともスゴトレをよろしくお願いします!

次回は最終回(オマケ回)としてもう1本だけご紹介します。